collabo-works怪談絵巻 10

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collabo-worksとは!?


「 ハル 」
   Storyteller:marc ishiya
   Photograph:nagiwo




ハルは整形美容のパンフレットを閉じてため息をついた。
確かに特徴のない顔をしている。
それは自分が一番よく知っている。
眉間にしわを寄せて、悔しくて唇を噛んでいるうちに涙がこぼれた。
昼間仲間に言われた一言がハルの心を傷つけたのだ。

「おハル~、あんた、顔までささくれだってるよ~」
「うっせ~んだよ。おまえ、何様だよ」と啖呵を切ってしまった。
実は母親にまで悪態をつく自分が嫌になっている。
仲間はハルの啖呵に驚いて逃げるように出て行った。

その瞬間ハルは、やっぱり整形しようと思った。
整形すれば心に余裕が生まれてきっと優しくなれる。
そう思ったのだ。

帰宅すると、「お帰り、ハルちゃん」と母親が言った。
ハルは昼間のことを思い出してむしゃくしゃしていた。

「うっせ~な」

哀しい顔をする母親と目を合わせないようにして二階へ駆け上がった。

***

夢を見たのはその晩だった。
整形した自分の顔が突然崩れていく夢。
どろどろに顔が崩れて、しかもただれていく。
泣き叫んでも顔は元に戻らなくて、赤鬼のような顔になった。
ワンワン泣いていると、
亡くなったはずの父親が目の前に現れてこう諭した。

ハルや、ハルや、泣くんじゃない。
お前の心の中にあるものが顔に出ただけじゃないか。
まず自分の心を綺麗にしなければ、
いつまでたってもお前の顔は綺麗にならない。
今から言うことを約束しなさい。

「お父ちゃん……」と声をかけたところで目が覚めた。

何を約束したのかがどうしても思い出せなかった。

***

出勤する途中、お年寄りがホームで倒れた。
杖が投げ出されて起きあがれない。
見ているだけで誰も助けようとしないので、
ハルは駆け寄ってお年寄りを抱きかかえ、
「大丈夫ですか?」と声をかけた。

あれ?

今までの自分ならこんなことしようとも思わないのに。
なぜこんなことをしたのだろう?

その日は、泣いている迷子を派出所に連れて行ったり、
怪我をした野良猫を介抱してあげたりと忙しい一日だった。
ハルはそのたびに自分がしたことに驚いた。
そしてどんどん気持ちが軽くなって行くのがわかった。

帰宅して洗面所に立つと、自分の顔がいつもと違う。
目鼻立ちは今までと一緒なのに、
どことなく晴れやかな顔をしている。


笑顔が可愛い……
洗濯物をたたんでいた母親が手を休めてハルを見つめた。

「ハルちゃん、なにかあったの?」

声のする方を見てびっくりした。
母親の身体の輪郭がまぶしく光り輝いている。
一生懸命な母の生き方がそのまま現れているように見えた。
父が死んでからもう10年にもなる。
母は自分のためにどんなに苦労してきたことか。
旅行もせず、好きな趣味もあきらめ、着たい洋服も着ないで、
子供に辛い思いをさせないようにと一生懸命働いてきたのだ。
この母の、無償の愛に報いなくてなんのための人生だろう?

「ねえ、なにかあったの? ニコニコして」

「どうして?」

「だって……赤ちゃんときの顔してる。まるで……」

「え……?」

「初めてお父ちゃんに抱かれたときみたいな」



                              marc&nagiwo



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by nagiwo | 2005-03-27 21:59 | Collabo-Works
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