collabo-works怪談絵巻 11

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collabo-worksとは!?



「 真実子 」
   Storyteller:marc ishiya
   Photograph:nagiwo



あたしが新聞記者を目指した理由はいくつかあるのですが、
亡くなった父のことが大きなきっかけだったと思います。

***

父は新聞記者でした。
事件が起きると何があっても真っ先に現場にとんで行くのです。
警察署長さんや警部さんたちとも親しくしていました。
眠いとか言っていたらいい記事が書けないからと、
どんなに疲れていても目をこすりながら出かけて行きました。
その晩は私の誕生日でした。
父は夕方少し早く帰って、小さなプレゼントを私にくれました。
「明日開けなさい」と父が言うので、我慢して机の上に飾りました。
小さな箱の中で、コトコト音がするのです。
なんだろう、開けてみたいという衝動に駆られました。

真夜中頃、家の電話が鳴り響きました。
最初は母が電話口に出ました。
「あ、部長さん、事件ですか? はいおりますので……」
すぐに父の声が聞こえました。
「そうですか? はい、すぐ現場に向かいます」
電話を切った後、廊下で父と母が交わす会話が聞こえました。
「いまから、行くの?」
「ああ、若いものには任せられないんだ」
「どうして、身体が疲れているのに、休めないの?」
「僕には、事件を取材する責任がある」
「たった一度読み捨てる新聞記事のために、命を削るなんて」
「たった一つの真実を伝えるために、だよ」
ガラガラと玄関から出て行く父の音がした。

目が冴えてそれっきり眠れなくなった。
明日は学級当番の日だ。眠らなくちゃいけない。
目の前の、銀紙にくるまれたプレゼントが目に入った。
青いリボンが結ばれている。
「なんで、明日じゃないといけないの?」
時計の音が頭の中まで響いてきた。
真夜中の2時だった。
やがて父が帰ってきた。
重い足取りで母と二言三言会話した後で、ベッドに横になるドスンという音が聞こえた。
父の声を聞いたら、安心してすぐに眠くなった。

翌朝、母の大きな声で目が覚めた。
「あなたーっ、起きてーっ、あなたーっ、嘘でしょーっ」
「母さん、どうしたの、母さん」
「真実子、来ちゃだめ、来ないで」
「……どうしたの、父さん、なにかあったの?」

***

その朝、父は起きて来なかった。
母が起こしに行くと、身体全部が冷たくて、布団をかけた姿のままで死んでいたという。
警察を呼んで調べが始まったが、その間中母が狂ったように泣き叫んでいた。
「どこに、あなたの真実があるの? ねえ、どこにあるの?」

***

あれから30年以上経って、私も結婚して子供が生まれた。
夫は普通のサラリーマン、平凡だけど幸せな家庭を築いている。
実家の母を訪ねると、いつも母は仏壇の前に座って考え事をしている。
「母さん、話があるの」
「なに?」
「あたし、あの晩、父さんとの約束を破ったの。ごめんなさい。あたしがプレゼントを開けてしまったから……だから……だから父さん、死んでしまったのよ、きっと、きっとそうだわ……」
「馬鹿ね、真実子、何を泣いているの? 父さんと一緒で、生真面目すぎるのよ、あなた」
私が父にもらった真っ赤なハート型のペンダントを胸元から引き出すと、母がハッと何かを思い出したような表情をした。

「そうだわ、あなたのそのペンダントに、あの朝写真を入れてあげるつもりだったみたいなの」
「え? 写真て?」
仏壇の引き出しをごそごそ捜していた母が急に明るい声を出して、
「あった、あった、これよ」とハート型に切り込んだ一枚の小さな写真を差し出した。

父と母が赤ん坊を抱いた写真だった。

「あなたよ、可愛かったのよ~、父さんね、みんなが待ち望む真実を、あなたがきっともたらしてくれるって、だから名前を、真実子っていう……」



                              marc&nagiwo



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by nagiwo | 2005-07-31 22:17 | Collabo-Works
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