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風に吹かれて

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立っていられない
もう立っていられないと
何度も思った



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by nagiwo | 2005-12-26 19:16 | Blue

collabo-works怪談絵巻 13

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collabo-worksとは!?



「 聖夜のあと 」
   Storyteller:marc ishiya
   Photograph:nagiwo



クリスマスの店先に並ぶ人形を見ると、あの男のことを思い出す。
亡くなった息子へのプレゼントを抱えて首吊り自殺をした、
あの男のことを……

***

買ってきたクリスマスケーキの包みを抱え直してから、
ホームの門をくぐると、仲間が血相変えて駆け寄って来た。

「アイダさ~ん、あんた、何処さ行っとった? サチさんが……」

サチが……死んだ……

身体全体から何かが一気に抜け出ていってしまうのを感じた。
思い出の写真がことごとく焼かれていくような感覚。

仲間と一緒に暗い廊下を走りながら、
サチの声を聞いたような気がした……

***

「今度のクリスマスは何をしようか?」とサチが言った。
「俺は、予定なんかないから……」と答えると、
「またあの娘に来てもらいましょうか?」とサチがニコニコしながら覗いた。
「うん、去年も、そう言えば喜んでくれたっけなあ……」
「何も特別なことはしないけど、あんなに喜んでくれたら嬉しい」

サチは昔から遠慮がちな女だった。
控えめで、絶対に自分から表に出ようとはしない。
夫が、刑事という世間離れした職業に就いていたせいかも知れない。
真夜中に呼び出されたら、どんな状況でも対応しなければならない。
言ってみれば、自分たちの生活などあって無いに等しかった。
それが、あの娘のことになると、
妻は我がことのように積極的に自分の意見を述べるのだった。


だが……その年のクリスマスは、とうとう娘は来なかった。
その代わり次の日、一通の手紙が届いた。

「……いつも招いて下さってありがとう。
でも、もう行きません。
同情や哀れみを受けるのがどんなに辛いことか
あなた方に理解できますか?
父は犯罪者でしたが、私には大切な父でした。
あなたが父を追い込んだのでしょう?
昨年、亡くなる前の母の口から聞きました。
あなたが、最後まで父を疑っていたという話を……」

そこまで読んで、男は手紙を置いた。
取り返しのつかないことをしてしまった。

***

葬儀はホームの一室で執り行われた。
息子が母親の顔を覗いて泣いている。
何年も会っていなかった息子の背中をじっと見つめた。
突然息子がくるっと振り向いてこう言った。

あんたが……殺したようなもんだ……

男はうなだれたまま何も言わなかった。
息子の言葉が胸にヤケ火箸のように突き刺さっていた。

母さんは、毎晩、どんな思いであんたのことを……

男はゆっくり立ち上がって、皆に一礼してからから、表に出た。
ホームの庭は夕方降った粉雪で真っ白である。
月明かりの雪景色はこの世のものとは思えなかった。
記憶の中に、あの晩見た男の子のステップ、フランス人形の顔、
旅館で見た男の遺体、アパートで初めて会った女など、
次から次へと蘇って来た。

自分も死のう……とぼんやり考えた。

するとその時、キュッ、キュッ、キュッと雪を踏みしめるような音が聞こえた。
音のする方向を確かめると、夜道を誰かがやって来る。
ハッ、ハッ、ハッ、と白い息を吐きながら小走りに近づいて来るその姿を見て、
男は全身に鳥肌が立つのを感じた。

おじさん……

「ホームのカエさんから連絡があったの。
おばさんが……亡くなったって?……ねえ?……おじさん
あたし……あたし……おばさんに、謝らなきゃ……」

娘はコートの中から、抱きかかえて来たものを出して見せた。

「おばさん……このフランス人形が大好きだったから……一緒にお別れに来たの」

それを見たとたんに、男はまるで土下座でもするかのようにひざまずいた。
今の今まで、ずっと堪えていたものが、止め処なく頬を伝い始めた。



                              marc&nagiwo


collabo-works怪談絵巻 7 「 聖夜 」
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by nagiwo | 2005-12-22 21:27 | Collabo-Works

ヒトミの内側

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あ、雪・・・。
そう言ったキミの目に映っていたのは
雪なんかじゃなかった。



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by nagiwo | 2005-12-19 05:45

よるのうた

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今日も訪れる小さな夜が
ほのかな明日へ子守唄うたう



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by nagiwo | 2005-12-15 00:50 | Varicolored

無防備の作用・反作用

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風にさらされて
私が剥がれ落ちてゆく



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by nagiwo | 2005-12-11 00:31 | Varicolored

見つめる足もと

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失うモノなんてきっと
思う程多くはないんだ



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by nagiwo | 2005-12-07 20:44 | Green

collabo-works怪談絵巻 12

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collabo-worksとは!?



「 父ちゃ 」
   Storyteller:marc ishiya
   Photograph:nagiwo



その冬、父の痛風が急激に悪化した。
早朝から高い熱が出て身体に震えがやってくる。
息が苦しくなり体中に痛みが走った。
冷やしタオルも氷枕もあまり効き目がなかった。
昼過ぎになるとようやく熱が引いて、
午後から身体がだるくなり、うとうとと眠ってしまう。

夕食は7時前に食べる。
ベッドの上で手仕事をした後は、洗面器で顔を洗い、歯を磨く。
部屋の灯りを薄暗くして寝ようとするのだが眠れない。
真夜中頃、寝返りをうつと誰かいる。

部屋の隅にボーッと誰かが立っているのだ。

あっ、おまえ……

母が起こされたのはそのすぐ後だった。
「おい、おい、起きろ、定春が来た」
「はあ? 定春だてが?」
「おうとも、今、そこさいる」
「あんだ、何言うてんな? 」
「見れちゃ、そごさ立ってる」
「おっかねごど言うなっちゃ」
「いいさげ、電気つけてくれちゃ」

母が電気をつけると父は部屋の隅を指さしていた。
その震える指の先には何も見えなかった。

長男の定春は30年も前に出稼ぎ先の大阪で病死したのだ。
そんなことがあるはずもない。
父は、不自由な体をもどかしそうに揺らしながら大声で叫んだ。

サダハル~、サダハル~、サダハル~、

***

「父ちゃだば、気が狂うだよになってそ……」と言いながら、
母は急須の蓋をパチンと閉めた。
今は嫁いでいる娘が真剣な顔で聞き返した。
「兄ちゃ、帰って来たってか?」
「んだ」
「……」
「おらも父ちゃも、定春ごどは死にでぐれえ、悲しがったども、
寺の婆ちゃの言うたように、死んだ者は帰って来ねあんださげ、
あまり悲しまねえよにしてだども……」
娘は黙りこくって聞いていたが、やがてこう言った。

「母ちゃ……
兄ちゃ……最後に、あだしに、
こげな話したことがあるなや……」
「どげな話や?」
「うん……
自分、死ぬで分かってたんだと思うなや。
最後の冬休みに帰って来たときや、
あだしにこう言ったんさ……
おら、もしも親より先に死ぬごとになったら、
親死ぬ時は孝行しに戻ってくるさげ……て」
娘の話を聞きながら母は目を真っ赤にしていたが、
たまらなくなって手の甲で両目をぬぐった。

その時、柱時計が夜7時を知らせた。
奧の寝間で、父の笑う声がした。なにやら楽しげに独り言を言っている。

サダハル~、一等賞取ったでが?……偉がったの……
よし、うなに好きなもん買うてやるどするが……
行ぐか……

最後の言葉の意味に驚いて、顔を見合わせた母と娘は、
慌てて寝間に駆け込んだ。

父は静かに眠っていた……

苦痛に耐える度に深くなっていった眉間のしわが、
今ゆっくりと消えていこうとしていた。



                              marc&nagiwo



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by nagiwo | 2005-12-03 21:22 | Collabo-Works