「 山上 」 Storyteller:marc ishiya Photograph:nagiwo 母はいつもそう言って笑っていたものだ。 母の死など思ってもみなかったが、冬のある日のこと、 風邪をこじらせた母が重い肺炎にかかったときは、 苦しそうにしている母を見て、言うとおりにしようと心に誓った。 その山の上には、何があるわけでもなかった。 頂には、雑木林や竹藪などがあり、ちょうど街を見下ろせるあたりに、 柔らかい土が露出していた。 僕は若い頃からの博打好きで、病院の帰り母を車に置いてはよくパチンコをした。 母は、「♪はるかな海に陽は沈み、月が高みにかかるころ、 街の灯りがきらきらと・・・なんて歌の本をさ、 子供のあんたに読んで聞かせたから、 パチンコ屋の灯りが好きになったんだわねえ、早く帰っておいでよ」 といつものように笑って手を振った。 母の歌は、いつもそこで終わる。思い出せないのだ、僕にも。 我を忘れた。 打ちひしがれて帰って来ると、車の中で母が苦しげに息をしていた。 「母ちゃん・・・・・・」母は返事をしなかった。 急いで病院へ引き返した。 集中治療室へ運ばれる母の小さな身体を、ぶるぶる震えながら見ていた。 それが母の・・・・・・最後となった。 「母ちゃん、置いて行かないで・・・・・・」 次の夜、泣きながら母を背負って山に登り、約束を守った。 泣くだけ泣いた翌朝、家には戻らなかった。 路上とパチンコ屋を往復しながら、乞食のように暮らした。 母を置き去りにしたことを思い出すたび、胸をかきむしられるようだった。 いつも路上から、母のいる山が見えていた。 夏の夕暮れ、その山に登る気になった。 3度崖からすべり落ち、3度木の枝に頬を打たれた。 ひとしきり強い雨が降って、びしょ濡れになった。 山頂近くのくぬぎ林まで来ると、鳥が鳴き騒いだ。 母が怒っている・・・・・・ 泥にまみれ、傷だらけになり、雨に濡れて、 ようやく山の頂に着いたとき・・・・・・それを見た。 全身に鳥肌が立った。 埋葬した母の周りに、花が咲いていた。 思い出した・・・・・・ ♪はるかな海に陽は沈み 月が高みにかかるころ 街の灯りがきらきらと・・・ またたく星をつれてくる お花も咲いた 鳥も来た みんなあなたに会いたくて marc&nagiwo
by nagiwo
| 2004-07-10 20:28
| Collabo-Works
|
-------------------- ナギヲWorksへようこそ。 初めに写真ありき、です。 撮った写真を見ながら、 ポコンと浮かんだ情景を コトバに置き換える作業、 写真とコトバのコラボレー ションを楽しんでいます。 Since 2004.04.29 ** Copyright (c) Nagiwo All Rights Reserved カテゴリ
以前の記事
最新のトラックバック
検索
ブログパーツ
その他のジャンル
ファン
記事ランキング
ブログジャンル
画像一覧
|
ファン申請 |
||